巻頭言
副会長 川合武司
昭和30年代、バレーボール競技が発展途上の頃、後の協会会長前田豊先生が「100万人のバレーボール」を唱えて、種々の施策をおこなった。その結果、徐々に競技人口が増加し、大いなる発展を遂げた。そして、6人制バレーボールは早稲田大学チームのはじめての米国遠征に端を発し、昭和39年東京オリンピック大会において大松氏が率いる全日本女子チームが金メダルを獲得、全日本男子チームは銅メダルを獲得するに至って、遂に100万人のバレーボールになったと言える。しかし、その頃はアマチュアリズムの大御所が体育協会におられ、時間とお金の制約を受けつつ競技が続けられていた。社会人にあっては仕事とスポーツの両立、大学にあっては学問とスポーツの両立が叫ばれ、大きな成果が得られた。当時の大学は学問の自由や学部の自治等が大切にされ、それぞれが独自の道を歩んだ。
時は過ぎ、現状はどうか。バブルの崩壊と同時に国の経済は下降し、各企業の業績も低下した。その中で、バレーボール界では、かつての名門チームである鐘紡や日本鋼管などがプロ化の波に乗れず廃部の止むなきに至った。これらのことはまさしく残念の一言に尽きる。この姿は平家物語の一説を具現している様相と思える。「奢れる者久しからず」「よどみに浮かぶうたかた」の如きである。今一度、初心に返ってスポーツ文化の見直しをしよう。このスポーツ文化はこの世にあって最も素晴らしいものであると言われる。しかし、そのようなことは馬鹿馬鹿しいものだ!。だが、真摯な態度で真剣にスポーツに取り組めば、素晴らしいもので価値の高いものとなる。
バレーボールを愛する指導者及び選手の皆さん、仕事とバレーボールを、また学問とバレーボールを両立させて再スタートしようではないか。これらのことを行うことはそれほど困難なことではない。バレーボール界の先達者が通ってきた道である。学問や仕事を十分に行い、それからバレーボールをしよう。早稲田大学矢島教授の調査によれば、感動するプレー・やりたいプレーの約50%は、ネットを越して打つスパイクだとあります。人のためにあるルールを有効活用して、身長差に応じたネットの高さを設定し、思い切りスパイクでゴールゲット出来る環境を作って楽しいバレーボールをしてみてはいかがか。
私どもバレーボール研究会の会員が望むこと、それは世の人々にバレーボールや各種のスポーツのもつ素晴らしい文化を健全な形で伝えたいと願っていることです。中学校や高等学校の教育現場では、バレーボールクラブ数が減少傾向にあると言われています。なんとか早い時期に歯止めをかける必要があります。英知を集めて諸問題を解決し、バレーボール競技の発展に努めたいと思います。
第1回研究集会から
今回は、10月26日早稲田大学で行われた第1回バレーボール研究集会の様子をまとめてみました。当日、約60名近い参加者があり、学校教育における課外活動バレーボールの現状について熱心に話し合われた。以下、発表された4名の先生方の発表要旨を掲載し、報告といたします。
東京都中学校男子チームの現状 篠原政一 氏
私の指導経験では1学年を担任や教科担当すると新入部員が増える傾向がありました。他校でも似た傾向が見られると思います。現在東京都では、加盟660校の中で270校前後まで、多摩地区でも100チームを越えていたチーム数が70弱に、西多摩地区でも21チームが15チームと言うように、ここ数年の間に急激な減少がみられる。減少の要因としては、Jリーグ開幕によるサッカー熱の高揚、NBA・アニメ人気によるバスケットボール熱の高揚、全日本バレーボール男子チームのオリンピック不出場や最近のマスコミのマイナスイメージにつながる報道が多くなっていること、学級数の減少、バレーボールが小学校で教科外種目である事の5項目が考えられる。
改善策を考えるとき、益々難しく考えさせるのは保護者のニーズの多様性である。強い部活動を必要としない考えや学校の部活動は余暇の楽しみという考え、本格的にスポーツを行うならばクラブチーム・シニアリーグなど地域やプロの下部組織などの活動がふさわしいなどの考えもある。
この様なことを考え合わせて最善の改善策を考えると、まず第一に部活動の方針をしっかりと保護者に伝えて理解を得て、両者で生徒を育てる雰囲気を作ること。次に活動時間の工夫、地域へのアピールにより理解と協力を得ることによって部員の確保をはかればチーム数・競技人口の減少にも歯止めが掛かり、よりよい方向へ向かうと思います。
中学生女子の立場から 鈴木和弘 氏
まず、埼玉県立公立中学校における運動部設置数の現状を見ると、平成6年度の調査では、バレーボール部が405校(総運動部数:3083)、平成8年度のそれでは411校(総運動部数2945)となっている。これは全体の約13-14%であった。バレー部に関しては、各年度において大きな変動は見られない。次に小4から中3女子を対象にした調査(健康に関する調査’95「日本学校・健康センター」)では課外活動への入部状況をみると、小学校と中学校では際だった差がみられた。即ち、小学校ではバスケット部への加入率が全体の約40%以上を占め、バレー部への加入率は僅かに4-13%程度であった。中学校ではバレー部への加入率が平均すると20%以上となっていることがあきらかとなった。また、この2つの調査から中学校に限ってみると、卓球や水泳部などの設置数・加入率がともに減少傾向を示した。その一方で硬式テニス部の設置校が増加傾向を示している。
最後に、上述の健康に関する調査から、中学校女子では部活動を「とても楽しい」「わりと楽しい」と感じている者が全体の71.5%に達していることが明らかとなった。本校(筑波大学付属中学校)の調査でも、学校生活で「大切なこと・楽しいこと」の上位に部活動が入っている。(大切なこと:第1位授業29.7%、第2位部活動27.1%、楽しいこと:第1位友達とのお喋り31.7%、第2位部活動27.1%) これらの結果から、課外活動(部活動)が、子供達にとって大切な場になっていると思われる。
高校生男子の立場から 鈴木陽一 氏
今回の研究発表では高校生を指導する立場から、実際の指導現場において個々の生徒諸君がバレーボール競技、スポーツに対してどのような意識を持っているかということに着目して、調査報告をした。その項目は、
- 最近5年間の東京都高体連加盟校数の変遷
- 男子高校生のスポーツに対する意識について
- 男子バレーボール部員の意識について
である。
1では、5年前の304校のチーム数が96年度には272校と年々減少し、中学校からの影響が確実にあらわれていることがわかる。
2では、早稲田大学高等学院の一般男子生徒395名を対象に、最も好きなスポーツ、嫌いなスポーツ、見るスポーツとして好きなスポーツ、機会があればやってみたいスポーツ等を調査した。サッカー・野球・テニスなどには関心度が高いが、バレーボールもその他のスポーツと比較すれば、それほど低い関心度ではないという印象をもった。
3では、関東地区の男子バレーボール部員の20校207名を対象に次の項目について調査した。小学校、中学校時に所属していた運動部・入部の動機・部に期待すること・部をやめたいと思った理由・中高生のバレーボール離れの原因などである。
この調査では、特に生徒諸君が指導者に対して様々な能力を要求していることが痛切に感じられた。また、現在の情報化社会、国際化社会の中で、生徒諸君の意識が日々変化をしており、科学的な理論や、効果的な練習方法などを常に研究し、実践していくことの重要性を痛感した。
高校生女子の立場から 藤生栄一郎 氏
東京都女子の試合参加チーム数や部員数の変化をみると、漸減傾向がみられる。しかしこれは全ての部活動に共通することであり、部活動自体が学校教育の中で問題となっていることや、生徒数の減少も影響していることを考えれば、バレーボールの人気がダウンしていると結論づけることはできない。逆に、様々な調査や体育授業、学校行事などの話を聞く限りでは、「バレーボール」事態は人気があると言えそうである。
にもかかわらず、部活動としてのバレーボール離れが認められることは、充分に考察されるべきであろう。考えられることの一つは、トップチーム強化の発送が高校から小学校まで影響した結果、バレーボールは小学生から競技スポーツとして発展したものの、かえってそれが次のステップでバレーボールをやってみようという意欲を失わせてはいないかということである。勝つことだけを目指したバレーボール部の活動が悪いのではないが、指導者の幅の広い考え方がこれまで以上に必要となっているのだろう。少なくとも高校までの部活動は、学校教育の中の活動であるということを考えれば、もっと多くの生徒が参加し、次のステップでもまたバレーボールをやってみたいと思わせるような指導が望まれているのではないだろうか。
お願い
ニュースレター創刊号でお願いしました<研究文献データー>の収集が思わしくありません。会員の皆様方のご協力がないとデーターベースの作成ができません。大変ご面倒なお願いですが過去5年間(平成3年より)に大学紀要・学会発表・雑誌などに投稿されたバレーボールに関する文献をお送りください。詳しくは創刊号をお読み下さい。期限は3月10日まで延ばしますのでよろしくお願いいたします。
編集後記
今回のニュースレターは、明石委員長を中心に企画委員会が開催した第1回研究集会の模様を御報告いたします。集会に参加されなかった方々にも雰囲気が伝われば幸いです。また、3月には第2回総会・研究大会が計画されたおります。開催要項を掲載いたしましたので会員の方々はもちろんのこと、会員以外の方々にも宣伝していただき、一人でも参加者が増えることを期待しております。
(1997.1.27.Toshi)