日本バレーボール学会 2015年バレーボールミーティング報告
会期 | 2015年8月8日 (土) |
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会場 | 紫波町情報交流館・オガールベース |
テーマ | 「地域から日本のバレーボールを変える~オガールベースの挑戦~」 |
2015年8月8日(土)、岩手県紫波町の紫波町情報交流館およびオガールベースにおいて、「地域から日本のバレーボールを変える~オガールベースの挑戦~」というテーマで、講演、シンポジウム、オンコートレクチャーが開催された。当日は、国内だけにとどまらず、遠くは海外からの参加者もあり、本テーマへの関心の高さがうかがえた。
セッションレポート
10:10〜11:00 講演①(紫波町情報交流館 大スタジオ)
「アウルズ紫波スポーツアカデミーの役割と可能性」
講師:綱嶋久子氏(NPOアウルズ紫波スポーツアカデミー)
冒頭、Vリーグチーム主将、全日本と華々しい経歴をお持ちの綱嶋氏が、なぜ岩手に来ることになり、そしてアウルズ紫波スポーツアカデミーのヘッドコーチに就任したのかについてお話があった。バレーボール教室で急遽代打という「偶然」、地元のクラブチーム岡崎建設OWLSの取り組みへの「感動」、オガールベース構想への「願望」そして家族の「決断」があって綱嶋氏の現在があるとのこと。
アウルズ紫波スポーツアカデミーの役割には1.リーダーとなり得る人材育成…感謝する心、感じる心を育む、2.コミュニケーション能力…挨拶、話せる力、聞く力を育む、3.自分の体を思うように動かせる力…変化していく自分の体に慣れる、という3つの柱がある。
それらの具体的な展開は午後のオンコートレクチャーで実際に実演された。
11:05〜11:55 講演②(紫波町情報交流館 大スタジオ)
「地域創生とスポーツ」
講師:岡崎正信氏(オガールベース株式会社代表取締役)
岡崎氏からは、「地域創生とスポーツ」というテーマでお話をいただいた。
現在のバレーボール界は、近年競技者人口が著しく低下しており、国際大会においても優秀な成績を残していない。少子化による影響もあるが、バレーボールが義務教育の延長線上のみで発展してきた経緯が大きく作用している。特に幼少期における発掘が手薄になっており、サッカーや野球等の人気スポーツに優秀な人材を流出させている。厳しい練習、体罰などのネガティブなイメージが付きまとい、保護者も含めバレーボールに対するイメージは必ずしも良いとは言えない。その原因としては義務教育の延長線上でバレーボールが繁栄してきた弊害がある。バレーボール界の問題は本質的には地域の問題と同じである。「財政問題・育成問題」と気づき「稼いで持続するシステム」、つまり、経営力をもつことが重要である。
日本のバレーボール界は近未来を担う人材(課題解決力を持つ人材、チームを統率できるリーダー)育成のために、今、すぐに動き出さなければならない状況にある。
以上のことについて経営者の視点から熱くお話しいただいた。
12:00〜12:30 シンポジウム(紫波町情報交流館 大スタジオ)
「地域から日本のバレーボールを変える~オガールベースの挑戦~」
進行:吉田 清司(専修大学)
シンポジスト:岡崎正信氏(オガールベース株式会社代表取締役)
綱嶋久子氏(NPOアウルズ紫波スポーツアカデミー)
シンポジウムでは、主にフロアからの質問にシンポジストが答える形でディスカッションが進められた。
フロアからは「オガールプロジェクトを進めるうえで一番大変だったことは何か」、「オープンから1年が経過したが、1年経過して見えてきた課題は何か」、「なぜほかのスポーツでなく、バレーボールなのか」、「バレーボールの魅力はどのようなところにあるのか」等の質問があり、綱嶋氏は指導者の視点で、岡崎氏は経営者の視点でそれぞれ質問者の質問に返答をされた。
ディスカッションは時間を過ぎても尽きることは無かったが、時間の関係上、惜しまれつつシンポジウムを終了した。
13:30〜15:20 オンコートレクチャー(オガールベース内,オガールアリーナ)
「リーダーの育成を目的としたジュニア指導」
進行:小川 宏(福島大学)
講師:綱嶋久子氏(NPOアウルズ紫波スポーツアカデミー)
解説:岡崎正信氏(オガールベース株式会社代表取締役)
午後のオンコートレクチャーは、昨年度オープンして間もない日本初のバレーボール専用体育館「オガールアリーナ」に場所を移し、「リーダーの育成」を実際の指導にどのように落とし込んでいるのかについて、綱嶋氏が指導するNPOアウルズ紫波スポーツアカデミーの皆さんに実際の練習を行ってもらいながら、岡崎氏が解説するという形式で進められた。
練習中、コーチの綱嶋氏がよく子どもたちに問いかけをする光景を目にしたが、それは子ども達が受身にならなることなく、自分たちで「もっといい練習にするためには?」ということを考えさせるためであるとのこと。たとえそれが間違っていても構わないということである。
また、ボールを使う練習に入る前のウォーミングアップが非常に念入りである点も興味をひかれた点である。子どもたちはできるだけ早くボールに触れたいものであるが、自分の体を良く知り、正しく立つ、歩く、という基本的な所から意識させている。また、ウォーミングアップ中に身体に関する様々な指示を出すことで、試合中に指示を理解し、素早く判断して動ける力を養う目的もあるとのこと。リーダー育成とバレーボール技術の育成を見事に融合させていると感じたオンコートレクチャーであった。
また、子供たちの「一言たりとも聞き漏らすものか」というほどの話を聞く姿勢の素晴らしさも多くの参加者の心を打った。このアカデミー生の中から将来の日本のバレーボール界を担うリーダーが出てくることを期待せずにはいられない。
【文責】髙野淳司(一関工業高等専門学校)