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日本バレーボール学会第16回大会 大会報告

2011年2月26-27日に日本女子体育大学(東京)において、日本バレーボール学会第16回大会が開催されました。
 参加者は、学会員、非学会員を含めて初日だけで100人を超え、両日とも各プログラムにおいて、活発な意見交換が行われました。

開催プログラム概要

第1日目 2011年2月26日(土)

1.基調講演「度重なるルール改正と今後の発展」

 講師:高橋和之(日本女子体育大学)
 司会:湯澤芳貴(日本女子体育大学)

2.シンポジウム「性差を考慮したコーチングを考える」

 演者:笹倉清則(日本女子体育大学)
 演者:小林 敦(東レアローズ)
 演者:安保 澄(全日本女子バレーボールチームアシスタントコーチ)
 演者:松永 敏(平成国際大学)

3.フォーラム

1)フォーラムA「バレーボール選手における肩関節の障害とその予防」
 コーディネーター:橋本吉登(寒川病院)
 話題提供者:板倉尚子(日本女子体育大学)
 実技指導者:二村光乃(陵北病院)
 実技指導者:渡部真由美(日本女子体育大学)
 実技指導者:原木早智(第一病院)、長谷川智美(松岡整形外科)
 実技:日本女子体育大学バレーボール部

2)フォーラムB「男女混合バレーボールの活動紹介と可能性について」
 コーディネーター:藤村雄志(日本混合バレーボール協会)
 話題提供者:大江芳弘(日本混合バレーボール協会会長)

第2日目 2011年2月27日(日)

1.特別講演「下肢のパワートレーニングに対する特性プライオメトリクス・マシーンの応用」

 講師:張 木山(台湾・慈済大学教授)
 司会:黒川貞生(明治学院大学)
 通訳:童 安佚(筑波大学大学院)

2.バレーボール学会総会

3.一般研究発表:ポスターセッション

1.高校長身男女バレーボール選手の目標設定と心理的コンディションに関する事例的研究
 ○横矢 勇一,遠藤 俊郎,田中 博史
2.バレーボール競技のブロックパフォーマンスに影響を及ぼす因子に関する研究
 ○馬場 大拓
3.ブロックパフォーマンスの改善を目的とした練習プログラムの提示~遂行過程に着目して~
 ○松井 泰二, 矢島 忠明,都澤 凡夫
4.バレーボールにおけるプライオメトリックトレーニングがスパイク、オーバーハンドパスおよびブロックに及ぼす効果
 ○吉原 宗介,坂中 美郷
5.バレーボールのラリーポイントシステムにおける得点に関する研究─高校の静岡県大会(2008-2010 年)を対象にして─
 ○高根 信吾,河合 学、小川 宏,黒後 洋
6.バレーボール選手における大腰筋に関する研究
 ○澤井 亨、瀬戸 孝幸、仲田 秀臣、島本 英樹、田邉 智、大槻 伸吾、平井 富弘
7.バレーボールのスパイクの打ち分けにおける肩関節と体幹の動き
 ○二村 光乃、板倉 尚子、渡部真由美、小内 悠気, 原木 早智、橋本 吉登
8.バレーボールのレセプションの成功率向上に向けた視覚トレーニング(プライマリ利用)の効果測定
 ○金子美由紀,神田 翔太,石垣 尚男,川岸與志男,植田 和次,後藤 浩史,山田 雄太
9.9人制バレーボール国体候補選手の心理的競技能力の変容とスポーツ競技不安との関係
 ○西野  明

4.オンコートレクチャー「性差を考慮したコーチングの実際」

 司会:湯澤芳貴(日本女子体育大学)
 講師:根本 研(日本体育大学)
 モデルチーム:日本体育大学女子バレーボール部 <概略>

プログラムレポート[1日目]

基調講演

 長年にわたって大学女子バレーボールの指導者として活躍してきた高橋氏に、自らの指導経験や、海外遠征などの思い出なども交えながら、バレーボールのルールの変更と、それに伴う戦術の変化や、バレーボールの普及への影響、選手育成の方法などについて、独自の考えを発表していただいた。
 常に同じチーム、あるいは個人がトップにならないように、スポーツの公平さを維持するためのルール変更を考えねばならないとの考えが述べられた。
 現在のバレーボールの得点方式はラリーポイント制であるが、これは「逆転の可能性」が非常に少ない得点方式であり、それがスポーツの価値の一つである「あきらめない」こと、そして面白みの要素である「逆転の可能性」を減らすことになるとの意見であった。
 その他、日本で行われる大会での特別ルールの是非について、ルール変更によって安全面の配慮が欠けることになるのではないか、など、ルールの視点から見たバレーボールのあり方についての意見を聞くことができた。

シンポジウム

1)笹倉清則氏

 ハンドボールの指導者として、また、指導者養成にも関わっている笹倉氏には、ハンドボール界の女子チームの指導者と男子チームの指導者の違いについて話していただいた。
笹 倉氏は3つのキーワード「一から十」、「白と黒」、「監督=先生」を挙げた。
 「一から十」について、男子は「一を聞いて十を知る」ことができるし、教える側もポイントのみを教え、対して、女子はそれこそ「一から十まで」教える、場合によっては1.2とか1.3という細かいところまで教える、という違いがあるということだった。
 「白と黒」については、女子の場合はたとえ学生が「暗幕は黒です」といっても指導者が「暗幕は白」といえば「暗幕は白」。選択肢を与えない人が多いとのことだった。男子の場合は白、黒、場合によってはグレーに見えることもあるだろう、と選手の意見をそのまま受け入れることが多いのではないか、とのことだった。
 「監督=先生」について、女子チームの指導者の場合、特に大学においては「監督=大学の教員」であることが多く、24時間、監督であり先生であることが多いということだった。しかし、男子の場合は練習が終われば、比較的、硬い関係ではなくなるという点が女子とは違うということであった。
 また、ヨーロッパのナショナルチームの監督のベンチワークの画像を用いた解説や、日本での指導者講習会でみられた男女の指導者の行動の違いの話もあり、興味深い内容であった。

2)小林敦氏

 小林氏にはアメリカ合衆国のバレーボールの体制(特にナショナルチーム女子、大学スポーツ界のしくみ)についてお話しいただいた。
 アメリカのバレーボールの人口は必ずしも多くないが、オリンピックでメダルを取れる大学スポーツの土台があるといい、その仕組みについて紹介していただいた。
 アメリカのバレーボールの普及については大学スポーツが大きく関わっているとのことであった。
 アメリカの大学スポーツでは奨学金制度が充実していて、且つスポーツと勉学の両立が当たり前のこととしてルール化されている。大学生は、奨学金を獲得して、勉学とバレーボールに取り組めることのメリットを十分理解しており、バレーボールに偏らない文武両道のアスリートを生む土台があるという。
 日本ではスポーツをやることで、勉強がおろそかになり、スポーツをやめた後のセカンドキャリアが懸念されることが多い。しかし、アメリカでは「スポーツで何かを成し遂げることができた人は、他のことでも何かを成し遂げることができる」と考えられる。

 普及と強化は両輪をなすものであり、どちらか一方だけ着目しても効果は少ないという話であった。
男女のコーチングの違いについて、小林氏が研修したUSA女子バレーボールチームの活動においても、男子チームとの違いは見いだせなかったという。目標設定をし、目標達成のための計画を立て、モチベーションを維持していくための工夫については、男女で違いがあろうはずもない。
 小林氏がアメリカのコーチたちに対して、コーチング上、性差をどのように考慮するかと問いかけたところ、返ってきた答えは特に男女の違いを考慮することはないというのがほとんどだったという。
 ”The laws of learning and the laws of physics are the same for men and women; therefore, we can coach men and women the same. “(Carl Mcgown)
 学習の法則と物理学の法則は男女とも同じである。したがって我々は男性も女性も同じようにコーチすることができる。
  “The main difference in Gender is that the Men have to respect you as a coach-the Women care about your humanity and your volleyball knowledge.”
 男女の大きな違いは、男性はあなたをコーチとして尊敬しなくてはならない、女性はあなたの人間性とバレーボールに関する知識を気にかける、ということである。

 つまり、コーチング上、男女差をとりたてて考慮することはないというのが基本的な考え方のようである。ただ、小林氏の意見では、男女とも目指す技術・戦術は同じであっても、心理的なケアの部分で、女子は男子よりも細かい配慮が必要であろうということであった。

安保澄氏

 安保氏からは、実業団チームのコーチとして、また全日本女子バレーボールチームのアシスタントコーチとしての経験を踏まえた上で、女子を指導する際、コーチが気をつけている点などについてお話をいただいた。
 安保氏は、女子を指導する上でコーチが考えねばならないことの一つとして、月経の問題を挙げた。月経痛や月経前症候群などで体調が不十分な選手に対して、無理をしてでもチームの練習に加わらせることは、選手自身にとっても、チームにとってもパフォーマンスの低下になりかねない。またハードな練習が誘因となりうる稀発性月経や無排卵性月経などの問題についても、コーチは十分な知識を持っておくべきであろうという。
 また、女子の骨格的特性として、X脚あるいはО脚の問題があると同時に、男子に比較して体脂肪が付きやすいという点があげられる。このことに加え、バレーボールの種目特性である、ジャンプやレシーブなどは膝関節に負荷がかかり、膝関節周りの障害を起こしやすい。したがって、障害予防の面からも、筋力トレーニングや、体重管理、動き作りなどについてもコーチが知識を持って指導していく必要があるとのことであった。

 また、2010年の全日本女子チームの筋力強化の目標を挙げていただいたほか、栄養面のサポートなどについてもご紹介いただいた。世界選手権で銅メダルを獲得できたのは、試合期間中に、きちんと栄養管理ができて、エネルギー切れにならずに戦いぬけたことが大きな要因であるとのことであった。
 女子を指導する上で、特に若い選手を指導する上で問題となるのは、選手の中にある「女性らしさを求める気持ち」と、「アスリートとしてレベルを上げたい気持ち」が相反する場合であるという。特に筋力トレーニングや、栄養指導の際に、気を使う部分だという。筋力がアップしてスパイクやサーブの威力が増したからといって必ずしもチームの勝敗に反映されないこともあり、効果がわかりにくいこともあるので、筋力トレーニングの指導の際にはきちんと目的を説明する必要があるという。
 女子を指導する際に、安保氏だけではなく全日本女子チームのスタッフが心がけているのは、選手一人ひとりに、こまめに声をかけてあげることだという。女子は男子に比べて自己受容感(所属するコミュニティに必要とされている、受け入れられている気持ち)があることが重要だという。したがって、男子よりも、こまめに声をかけてあげることで、選手のモチベーションを維持できるのではないかということであった。

松永敏氏

 松永氏は、女子チームの指導者としてだけではなく、男子チームの指導者としての経験も豊富である。その経験をもとに指導する際の男女の違いについてお話しいただいた。
 男女の違いで最も大きいのはいわゆる体力の部分である。体力が違う、ということは当然、男女ではできる技術が違うということにつながる。男子は技術を増やす、多彩な攻撃のバリエーションをもつことが重要であるしそれが可能である。しかし、女子は男子よりできる技術の幅がないので、一つ一つの技術の正確さが重要になってくるし、技術を磨く練習に重きが置かれるという。
 ジャンプ動作について、スライドを用いてスパイクジャンプとブロックジャンプについて、解説をしていただいた。いわゆる最高到達点とスパイクの打点は違うということ、またブロックについては移動のスピードや体の使い方が男子とは違うので、ジャンプの際のスイングのタイミングや打点の改良の指導などが必要であろうとのことであった。

 また、指導においては男女とも、ティーチング(教える、型にはめる)とコーチング(助言する、気づかせる、理解させる)のバランスによって、選手は成熟していくが男子の方は女子よりも早い段階でCoachingに移行していけるという。換言すれば、女子もより早い段階からCoachingの割合を増やしていくことが必要ではないか、ということであろう。
 松永氏によれば、指導者は男女とも試合の相手が最良のコーチであるということを忘れないようにしなくてはいけない、という。試合をやっている相手が一番プレーを教えてくれているということを考えないといけない。指導者は、いかに適当な相手を練習相手、対戦相手に選ぶかということが一番重要なのではないか、と締めくくった。

フォーラムA『バレーボール選手における肩関節の障害とその予防』

 コーディネーターとして整形外科医である橋本吉登氏、話題提供者として板倉尚子氏を中心としてフォーラムAが行われた。

フォーラムB『男女混合バレーボールの活動紹介と可能性について』

 フォーラムBは、男女混合バレーボールについて、日本混合バレーボール連盟代表である藤村雄志氏と、日本混合バレーボールバレーボール協会理事長の大江芳弘氏による発表があった。
協会の活動について、試合開催やルールブックの作成、メーカーと協力して行った専用ボールの開発・紹介などが行われた。協会自体が発足間もないということから、今回の学会発表の場で、様々な意見をいただきたいとのこともあった。
 協会で課題として取り組んでいく当面の問題としては、体育館の確保、大会の普及、そして、活動資金の工面ということであった。
 活動状況や、ルール、協会の課題について、会場では様々な感想や意見が交され、活発なフォーラムであった。

プログラムレポート[2日目]

1.特別講演『下肢のパワートレーニングに対する特性プライオメトリクス・マシーンの応用』

張 木山(台湾花蓮大学体育教学センター教授)

 2日目の午前中には特別講演として男子バレーボール選手を対象としたプライオメトリクス・トレーニングについての研究発表が行われた。
 バレーボール選手にとって、スパイクあるいはブロックのジャンプは非常に重要な技能であり、その高さは高いほどよいとされる。いわゆる「ジャンプ力=ジャンプの高さ」を向上させるためのトレーニングの一つとして、プライオメトリクス・トレーニングがある。
 張氏はプライオメトリクス・トレーニングを行うための独自のマシンを考案・作成し、それを用いた3ヶ月間のトレーニングを男子バレーボール選手に行わせ、どのような成果が得られたかについて、様々なデータをもとに発表が行われた。

 負荷のかけ方については70%1RMの負荷と90%1RMの負荷で、ジャンプ高の伸び方に差異がなかったことから、選手の疲労を考えると70%1RMくらいでよいのではないかということであった。トレーニングは負荷が強ければ強いほど、効果が上がると考えがちであるが、「トレーニング効果を上げ、かつ、安全な最適な負荷がある」ことの証左のひとつであろう。
 また、トレーニング後の下肢の各部位(主に大筋群)の伸張性収縮と短縮性収縮の筋電図上の違いなどについても、研究成果が発表された。
 講演後、日本バレーボール学会から、張氏に記念品が贈呈された。

2.一般発表

 今回の一般発表はポスター発表で演題は9つであった。
 心理学、トレーニング学、ゲーム分析、技術分析など、様々な視点からの研究発表が行われた。
 会場では各ポスター前で様々な質疑応答や意見交換が行われ、熱気に包まれていた。

3.オンコートレクチャー

『性差を考慮したコーチングの実際』

 女子バレーはトップレベルにおいて、男子化が進んでいる。この背景には、男子に近いスキルを身につけ、攻撃のバリエーションを増やすことが、他チームより優位に立てるという研究成果があると考えられる。
 今回のオンコートレクチャーでは、日本体育大学女子バレーボール部が、バレーボールの男子化を目指して、どんな練習をしているかという事例紹介が行われた。
 高さ、速さ、パワーを目指せる体格があるのであれば、女子であっても、その目的に合った練習をすべきであり、今できる技術を磨くだけではなく、できることを増やそうというのが講師である根本氏の指導の主旨だという。

 ウォーミングアップ、ボールを使ったウォーミングアップ、パス、レシーブ、サーブ・・と練習メニューが続き、それぞれにおいて「男子化を目指すための工夫」の解説があった。
 例としては、サービスは必ずジャンピング・サーブかつスピード・サーブとし、その際、スピードガンを設置してサービスの速度を選手が確認できるフィード・バックの工夫がなされていた。
 また、女子でよく行われると考えられる3人レシーブの練習も紹介された。このときは、3人がコートの中でコミュニケーションをとりながら動くことの重要性が強調された。換言すれば、コートの中のコミュニケーションを取れるようになるためにも、3人レシーブは効果的な練習であるともいえよう。
 そのほか、ラリー練習も3対3、4対4、5対5と数を増やしたり、セッターのポジションを変えたり、様々な練習バリエーションが紹介された。

 「この練習では、○○という意識を持ってプレーするように言います」「意図のないプレーはだめです」「コートの中でコミュニケーションをとろうとしなくてはいけない」という言葉が多く聞かれ、根本氏が「意図を持って、高い意識でプレーすること」を重要視していることがわかった。指導のポイントとして、根本氏によれば、女子の場合はこまめに指示をしてあげた方がいいのではないか、ということであった。

4.閉会のあいさつ

 日本バレーボール学会副会長、明石正和氏より閉会のあいさつがあった。