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ニュースレター 第4号

巻頭言

副会長 島津大宣

2003年の学習指導要領の改訂にあたり、 体育の教材として「バレーボール」を1つの運動種目として採用してもらうために、 いろいろな運動がすでに実施されています。 しかし、なかなか困難な様子です。 かような現状のなかで、第2回バレーボール研究集会では、企画委員のご努力により、 「バレーボールの小学校体育への導入に関する試み」と題して、 鈴木漠氏、片野昭秀氏、永島惇正氏、黒川貞生氏の4氏から貴重な講演 (行政的、現場指導的、研究的、生理学的各立場から) を伺うことができました。 「賢く」「仲よく」「元気よく」をモットーに、 いかに指導者が子供の立場を考えて、 指導していくかが大切な様に思いました。 この会員の皆様も、小学校、中学校、高等学校それに大学のどこかの在学期間中に、 バレーボールの指導がとても熱心な指導者に巡り合われており、 そして現在があるものと思います。 今の子供達にも将来バレーボールに熱中できる様な環境作りをしたいものであります。

1997年11月”World Grand Champion’s Cup ’97″男女国際バレーボール大会において、 「25分併用ルール」が適用された。 男子チームでは15試合、54セット(5セット目の4試合は含めず)、 女子チームでは15試合、51セット(5セット目の2試合は含めず)で、 25分経過後ラリーポイントに入ったセット数の割合は、男子チームでは37セット(68.5%)あったのに対して、 女子チームでは15セット(29.4%)に過ぎなかった。 また、総セット所要時間においては、90分未満と90分以上で比較してみると、 男子チームでは5試合(33.3%)と10試合(66.7%)に対して、 女子チームでは9試合(60.0%)と6試合(40.0%)で、 男子チームの方が女子チームに比べて、ラリーポイントのセット数も、総セット所要時間も多い傾向がみられた。 25分経過後「ラリーポイント制」になると「サービスポイント制」に比べて、 ややセット所要時間の短縮となろうが、1セットの中で「サービスポイント制」と「ラリーポイント制」とが併用となり、 10得点前後の攻防が1つの大きなキーとなろう。 この時点で得点差がついてしまうと致命的で、逆転の可能性はほとんどない。

一方、今試合でも10ラリー以上続いたセットでは、追いつ、追われつで、サービスポイント制では味わえない醍醐味もみられた。 ゲームの流れに応じて、 「ノーマル・タイムアウト」「テクニカル・タイムアウト」「メンバーチェンジ」「リベロ」等をいかにうまく活用するか、 監督の手腕が問われそうである。 本研究会でも今後「研究課題としなければならないであろう。

1997年度 第2回研究集会報告

テーマ:「バレーボールの小学校体育への導入に関する試み」

11月8日(土)早稲田大学喜久井町グラウンド内体育講義室で、 本年度2回目の研究集会が開催され、約50名の参加者があった。 今回は、現在学習指導要領の改訂作業が進めらている中、 「バレーボールの小学校体育への導入に関する試み」というタイムリーな話観で、 川合武司、鈴木陽一両氏の司会のもとに、シンポジュームも大変盛り上がり、 熱心な質疑応答が展開された。

以下、発表していただいた4名の講師の発表要旨と質疑応答を講師の方並びに河合学(静岡大学)、 川田公仁(筑波国際大学)、今丸好一郎(筑波大学)の3氏のご協力により、 まとめて頂いたものを掲載し、報告と致します。

行政的立場から

鈴木漠氏(文部省体育局 体育官)

学習指導要領における小学校・体育の内容構成について

小学校の体育の内容は、児童の発達的特性との関連、運動の配列や系統性、 全学年を通じての一貫性などを考慮して構成されています。 具体的には小学校低・中学年での、「基本の運動」と「ゲーム」を基盤としながら、 「体操」、「器械運動」、「陸上運動」、「水泳」、「ポール運動」・「表現運動」の運動領域で構成されており、 様々な運動経験ができるとともに、中学校へつながる内容となっています。

ただし、ボール運動の中には、サッカー(ラインサッカー)やバスケットボール(ポートボール)が取り上げられていますが、 「バレーポール」は盛り込まれていません。 戦後の一時期、学習内容に示されていましたが、 現在は、バレーボールは、中学校からの内容となっています。これは、私見ではありますが、 バレーボールが小学校・体育の内容として取り上げられていないのは、 バレーボールの特性として主に次のような課題があるからと想定されます。

バレーボールの機能的特性(醍醐味)を味わうには、 ラリーを続けるための相当の技能が必要であり、小学生には難しい。
特に

  • ポールを瞬時(保持せずに)に意図した方向に送り出す動作(ホールディングの禁止)
  • ジャンプしてポールを意図した場所に打つ動作(空中でのボディコントロール)
  • 素手、腕で直接触れて行う(ラケット、バットなどの用具を使用しない)

などが習得しにくいと考えられます。
又、

  • ルールが複雑で、得点源が多く、伸び伸びとした動きを制限することが多い。
  • ホールディングなどの判定基準が難しく、見ているほうも分かりにくい。
  • ボールが硬く、腕や手が痛い。 突き指などの怪我をしやすい、などが挙げられます

といった点です。

学習内容の弾力的な取払いについて

小学校学習指導要領・第1章総則・第2・内容等の取扱いに関する共通的事項の1に 「第2章以下に示す各教科等の内容に関する事項は、 特に示す場合を除き、いずれの学校においても取扱わなければならない。 ……学校において特に必要がある場合には、……内容を加えても差し支えないが、 その場合には.各教科等及び各学年の目標や内容の趣旨を逸脱したり、 児童の負担過重とならないようにしなければならない。」と示されています。

これを根拠にして、条件付きではありますが、 例えば、体育においては、ミニソフトバレーボールなどを試行的に、 加えて導入することがあっても差し支えないといえます。 つまり、必要がある場合には、「体育」に示された内容を確実にこなした上で、 それに加えて、ミニソフトバレーボールを取り扱うことは、可能であるということです。 ただし、その場合、体育及び学年の目標や内容の趣旨を逸脱したり、 児童の負担過重となったけることのないように十分配慮したり、 また、児童のミニフトバレーボールに対する学習の準備状況を十分に見極めることが大切となります。

バレーボール協会から「小学校のポール運動の中にバレーポールが盛り込まれるよう改善されたい。」との要望があったと聞いています。 そこで、前述したような、学習内容の弾力的な取扱いについて説明をし、 現行学習指導要領下においても、 特別な場合には小学校の「体育」でミニソフトバレーボールを行うことは可能であることをお伝えしました。

こうした状況の下、バレーボール協会は自ら、 小学校教員を対象にミニソフトバレーボールの指導者養成を行ったり、研究実践校を指定し、 指導の在り方を実践的に研究するとともに、用具の開発を進めるなど、 小学校・体育の内容として取り扱うことを可能にする条件づくりに努力してこられています。

次の学習指導要領の改訂に向けて

学習指導要領改訂への道筋は、まず、中央教育審議会から、 「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の答申の考え方に沿って検討されることになります。 全体の方向性としては.

  • ゆとりの中で「生きるカ」をはぐくむ
  • 完全学校週5日制の実施
  • 個性の伸長と基礎・基本の徹底
  • 授業時数の削減と内容の厳選

などをキーワードに検討されることになるでしょう。 小学校の体育や中・高等学校の保健体育の内容の改善については、 体育の目標である「生涯スポーツの基礎づくりと体力の向上」を堅持しつつ、 必修から選択へ、選択制の一層の深化・拡大の方向となると思われます。

また、運動の配列・系統性・一貫性、運動の分類の考え方、球技の分類の考え方(例えば、テニスなどのネット型、バスケットポールなどの混戦型、野球型などに分けられよう。)などの 様々な観点から検討されます。 その際、ミニソフトバレーボールについても検討課題の一つと考えられます。
さらに、

  • ミニソフトバレーボールのもつ運動の特性
  • 児童の発達的特性との関連と取扱う学年
  • 小・中・高校の学習内容の精選と一貫性の確保

などの観点から総合的に検討されることになると予想されます。

現場指導の立場

片野昭秀 氏(早稲田小学校)

平成3年より体育の授業の中で、 ミニソフトバレーボールの指導に取り組んできました。 当初はゴム製のボールで、ノーバウンド、キャッチ不可、 いわゆるバレーボールのイメージにこだわったルールで行いました。 その結果ラリーが続かず全くゲームになりませんでした。 その後、ミニソフトバレーボールの研究校である京都教育大付属桃山小、 東京学芸大学付属小金井小の発表を参観して、 ビニル製のボールでワンバウンド可というルールを採用することにより、 バレーボールのおもしろさである「ラリー」がよく続くようになることを知らされました。 平成8年よりそのルールで3年生、4年生と2年間にわたり取り組んだ結果、 子供達の興味が非常に高まりました。

授業後の感想に、38人中36人が「楽しかった、またやりたい」と書いてありました。 また、「サーブ」「スパイク」「ブロック」などバレーボールの基礎技能も、 自然な動きの中で子供達は行うようになってきました。 ミニソフトバレーボールが小学校の体育の教材として適しているか、ということについては、

  • 話し合いによりルールの工夫が多様にわたること
  • チーム内で協力の姿勢がなければ試合が成立しないこと
  • 運動量が豊富なこと

以上の3点から適しているといえます。

この3点は、これからの体育学習が目指す「賢く、仲良く、元気よく」そのものだと思います。

課題もいくつかあります。 まず、都内の公立小学校の体育館ではバドミントンコート3面が精一杯で、 2面しか取れない所も多々あります。 37〜8人の学級では4面は欲しいものです。 また、コートの常設が難しく、ネットを授業の度に張らなければならないこと、 校庭での指導が難しいことなども課題としてあげられます。 他にも課題が挙げられますが、 ミニソフトバレーボールが教材として取り上げられることにより、 一つ一つ解消されていくことだと願っています。

研究的立場から

永島惇正氏(東京学芸大学)

バレーボールが小学校教材として学習指導要領に採り上げられていない理由に、 ボールが重くて操作が難しく、 運動量が確保できないこと等が挙げられる。 小学校教材化への課題解決のためには、 「今持っている能力」で出来るだけ早くゲームを成立させ、 ラリーの中ではげしく得点や勝敗を競うというバレーボールの本質を損なわせないことが必要であろう。

そこで、ボールそのものに注目し、 軽くしかも丈夫なボールの開発をメーカーに依頼した。 手で弾いて空中に打ち上げる風船をモデルに検討した結果、 塩化ビニル製で50gと100gのポールが完成した。 このボールは、小学生にも扱いやすく、 バレーボールのゲームが楽しめるミニソフトバレーポールが全国的に誕生した。 平成6年度以来、全国的に授業実践を重ねて用具・ルールの改善を進めてきた。 低学年からルールを工夫(ワンバウンド可、触球回数の緩和)しゲームを楽しませていくと、中高学年ではスパイク・ブロック・スライディングレシーブ等のプレーや、 互いに協力し声をかけ合って攻防を展開するチームプレーが見られるようになった。 また、ポールやネットの開発により生徒自身による速やかに安全なネット張りと後始末、 セルフジャッジやチームごとのミーテイング等でゲームを自主的に運営する能力も高めることができた。

ミニソフトバレーボールの教材としての価値は、 何よりも、子供達みんなで協力し創意工夫して楽しく学習を深めることができる点にある。 また、子供達がゲームに熱中するため指導しやすく、 体育の指導が苦手な教師を救う可能性を持つ。 加えて、テニス・卓球と比してネット型ボールゲームの基礎的な学習を保証し、 心身の発達を促進するという社会的期待に応えるより高い可能性も持つ。 今後は軽くて安全な材質の支柱、安価な膝や肘のサポーター等を考案し、 さらに研究を深めていきたいと考えている。 なお、発表の途中に、市川英俊教諭により、 東京学芸大学教育学部付属小金井小学校で実施された授業研究のビデオが上映され、 こどもたちがミニソフトバレーに熱心に、 且つ活発に取り組む姿がみられ、 参加者全員驚きとともに認識を新たにした。

生理学的観点からの検討

黒川貞生氏(東京大学大学院生命環境科学系)

バレーボールの楽しさ、 素晴らしさを小学生にも味わって欲しいとの考えに基づき、 バレーボールの小学校体育への導入が検討されている。 しかし、体育の教材としてバレーポールを導入するためには、 バレーボールを行うことによって体力の向上や運動に親しむ態度の育成が図られ、 さらに豊かな人間性が育まれる可能性が存在しなければならない。

そこで、ここではソフトバレーポールの運動特性および運動強度について明らかにし、 ソフトバレーボールが児童期に行なうスポーツとして適切であるか否かについて検討した。

ソフトバレーボールの運動強度およぴ運動特性

ソフトバレーボールは、6人制バレーボールと比較して、 コートの大きさ、ネットの高さ、プレーヤーの人数等が異なることから、 その運動強度および運動特性も異質のものと思われる。 図1は、3セットから成るソフトバレーボール競技中の酸素摂取量および心拍数の経時的変化を示したものである。 ゲーム開始前に80拍/分であった心拍数は、 各セット共、ゲーム開始後150〜160拍/分まで急激に増加し、 その値をセット中維持し、セット終了後ほぼゲーム開始前の値まで低下する。 ゲーム中のこの心拍数は最大心拍数の70〜80%に値する。また、ゲーム中の酸素摂取量は、最大酸素摂取量の55〜70%に相当していた。 血中乳酸濃度については、ゲーム中も安静時レベル(1.2mmol)と同等で、 乳酸の蓄積は認められなかった。 一方、ゲーム中におけるプレーヤーの高強度運動(サーブ、レシーブ、スパイク、ブロック、ダッシュ)の出現頻度は、 前衛でも後衛でも約20秒に一回であった。

したがって、ソフトバレーボール競技は、 高強度の運動がおよそ20秒に1回程度出現する間欠的な運動であり、 中等度の運動強度のスポーツであると考えられる。 ただし、この実験で用いた被検者はバレーボール歴7年くらいの大学男子学生であることから、 発育段階およびスキルレベルの異なる小学生がソフトバレーポールを行った場合にも同様の運動強度となるかについては、 今後の研究が待たれるところである。

児童期に行うスポーツとしてのソフトバレーボールの有効性

体力の発育・発達の観点から見ると、 児童期には筋力および全身持久力の向上が期待できるスポーツよりも、 走、跳、投、打等の種々の動きを含んだスポ←ツを行わせ、 神経系の発達を期待できるスポーツが適当と思われる。 したがって、生理的な側面から考えると、 上述したような条件を含んだソフトバレーボールは、 児童期に導入するスポーツとして適していると言えよう。 今後、小学生を被験者として、 ゲーム中の心拍数および酸素摂取量等を測定し、 運動強度を明らかにすることが必要不可欠である。 そうして、そこで得たデータに基づき、適切な運動強度となるようにルールをアレンジしたりすることも可能であろう。

質疑応答

Q;ミニバレーをより良くするために必要な用具は何が考えられるか。

A;練習用具に関しては現在以上のものを必要とは感じない。 ゲームを進めていけば自然と上手くなっていく。 それよりも児童が安全にプレーできるように、 安価な膝・肘当て、あるいは得点板などの開発が急がれる。

Q;日本協会の指導要領への導入の意識と、研究場面におけるミニバレーに村する意識は違うか。

A;かつては違ったが、現在はほほ同じである。

Q;安全な授業を実施するためにどのような点に注意すべきか。

A;特にネットタッチについては注意するようにしている。

Q;サイドライン上にポールがあるため、ポールにぶつかる事故はないか。

A;事故の報告は聞かないが、安全性を考慮すればポールカバーを付ける等の配慮は必要であろう。バドミントンのポールにつける補助支柱もあるが、 現在ではソフトバレー専用ポールも販売している。 ポールカバーは今後検討していく。

Q;安全性ばかりに気をかけると児童の危険認知能力が鈍るのではないか。

A;その通りで、スポーツを安全に実施する能力を学習する機会は作らなくてはいけない。

Q;日本協会が学習指導要領に入れたいと希望したのは、普通行われているバレーボールであったのか。

A;日本協会の希望は当初「バレーポール」ということだったと聞いているが、 その後小学校の教材向けに「ミニソフトバレー」ということだったと承知している。 協会としても実践的な研究に努力されている。 また、全国スポレク祭等を通じてソフトバレーをバックアップし、普及に努めているようである。

Q;ミニバレーは生涯スポーツとしてのソフトバレーにつながると考えるのか。 また、6人制バレーにスムーズに移行できるものなのか。

A;継続したカリキュラムとして行われているわけではないので何とも言えないが、 3・4年生でミニバレーを導入すれば5・6年生で軽量皮革ポールを導入することも可能かもしれない。 またソフトバレーに関しては現在が完成した形ととらえることができ、 それをどうつなげるかは先生方の教材観によるであろう。

Q;中学生の指導にワンバウンドを取り入れたら非常に盛り上がった。 ボールを床に落としてもバレーなのか。バレーの特性とはいったいなにか。

A;私の考えるバレーのエキスはネットを挟んで豊かなラリーを楽しむということであり、 それができるのであればどのような改革も行うべきであると考える。 ルールを考える際にどうしても現行の規定を思い浮かべてしまうが、 時代とともに変わるものであり、その時代・対象等によって自由に決めてよいのではないか。
A;ゴールゲット(得点の仕方)の方法を、対象となる集団により変化させる実例があるように、 プレーする人が楽しむためのルールであればどのようなものに変えてもよいと思う。

Q;小学生の発達期にはいろいろな運動をしたほうが発達の刺激となると考えるが、 その割には学習指導要領に記されている種目が少ないのではないか。

A;1・2年生では基本の運動の内容としてさまざまな運動が入っているし、 各種の運動の基礎的なものを盛り込んでいる。 3年生以上の種目に関しても各種のスポーツ種目を系統的に配列している。 従って、子供達が小さいうちから様々な運動経験をするべきであるという点では、 心配するほどではないと考える。

編集後記

今回のニュースレターは、1997年度第2回研究集会の内容を中心にまとめました。 今回の研究集会は「バレーボールの小学校体育への導入に関する試み」というタイトルのもと開催されましたが、 会員はもちろんのこと、会員以外でも多くの小学校教員の方々に参加していただき、 2003年の学習指導要領の改訂に向けてのバレーボールに対する関心の高さを感じました。 また、今回は3名の会員に発表の記録をお願いし、編集作業が大変助かりました。 ここに御礼申し上げます。

また、3月28日(土)には第3回総会・研究大会が予定されております。振るってご参加下さい。

(1998.1.28 Toshi)