バレーボールミーティング

2004年研究集会

20040801

「バレーボールのチームづくり」

バレーボール学会理事 専修大学 吉田清司

2004年7月、「バレーボール学会 2004年第1回研究集会」が専修大学社会体育研究所の協力を得て、神田キャンパスにおいて開催された。講師はVリーグ5連覇を達成したサントリーサンバーズゼネラルマネジャーの鳥羽賢二氏と、本学OBで元全日本代表の佐々木太一氏であった。テーマは「バレーボールのチームづくり」で、参加者は150名を越え、14番教室と地下3階体育室がほぼ満席になる状態であった。

サントリーのVリーグ5連覇は、いずれも2次リーグに照準を合わせ、チームをトップコンディションに導いた結果によるものであり、チームの目標設定や選手たちの意志力、トレーニングの積み重ねの重要性を参加者に認識させてくれた。 また、両講師ともミドルプレーヤーとして活躍してきた経験から、チームでのミドルプレーヤーの役割やその機能についても、さまざまな知見を得ることができた。ここに研究集会の概要を報告する。

           

研究集会プログラム

開会挨拶

杤堀申二バレーボール学会会長 専修大学挨拶 坂本武憲氏(法学部教務委員長)

講演(14番教室)

  • 鳥羽賢二氏(サントリーサンバーズGM)
  • 演題:「サントリーサンバーズ5連覇の軌跡と今後の展開」

オンコートレクチャー(地下3階体育室)

  • 鳥羽賢二氏(サントリーサンバーズGM)
  • 佐々木太一氏(サントリーサンバーズテクニカルディレクター)

テーマ:「ミドルプレーヤーとしてのスパイク決定率の上げ方」

閉会挨拶

杤堀申二バレーボール学会会長

講演、レクチャーの概要 鳥羽賢二氏

「考えて実践する」というのが我々のチームのテーマです。また、バレーというスポーツを通してどのように社会貢献ができるか考えることもチームのテーマになっています。

チームというのは個人の集合体ですから、当然生きているものだと考えています。生きているからにはどんどん変化していくものですし、新しいものを作り上げていくにはまず、古い体質から脱却・破壊していくことが大切だと思います。サントリーバレーボールチームは31年前に設立されました。そこから現在まで何度も監督が替わりましたが、トップが替わると言うことは、やはり選手も刺激を受けるわけです。それが良い方向に進めば結果も出てくるものです。そこを古い体質のままずっと行くというのは、今度は伝統を守ろう守ろうとしてしまって、なかなか新しいことができなくなってしまうと思うのです。伝統もあり進化もする組織というのがベストではないかと思っております。私は伝統というのは、新しく積み上げていくことで生まれてくるものだと考えています。新しいことにチャレンジしないと、ややもすると伝統自体もなくなってしまうと考えています。

チームには縦列型組織と並列型組織というのがあると考えています。日本社会というのは縦の社会構造だと思うのですが、敢えてサンバーズは並列型の組織になっています。責任の所在を明確にして、それぞれのポジションで「自分が今なにをやっているのか」を考えることが大切だと思っています。かつてサントリーは縦列型組織でした。監督が一つのWhatを提示し、それをコーチが考え、コーチが考えたことを選手が行うという形でした。

しかし、現在のサンバーズでは選手それぞれが自立して行動しています。例えばサントリーの選手は大切な場面でミスをしたからといって、監督の顔色を窺うようなことは決してありません。自らが考え、そして行動するということができているからです。これは社会人のチームに限ったことではなく、中高生のチームでも同じことが大事なのではないかと考えています。監督の厳しい指導の下、時には体罰などもあるチームが良いチームとして全国大会などに出場していますが、本来それはあってはならないことだと思うのです。中高生とはいえ、自立しようという気持ちを持っているものです。これからの指導者に求められるのは、しっかりとコミュニケーションをとりながら、個性をみつけ、個人の自発性を最大限に尊重して能力を引き出し、成長を促すことではないかと考えています。そして組織を作る上で忘れていけないのが、「将来このチームをどのようにしようか」という理念や目標を持って、中・長期的に改革していくことだと思っています。その場しのぎでコーチや監督を替えていくようなチームでは勝てないと考えています。

チームの競争力を強化することについては、選手がそれぞれの能力を高めていくことは勿論ですが、GMである私を含めて、コーチや監督も成長していく姿勢がないと、強くなっていくことは不可能だと思います。基本的にチームというのは監督のキャパシティー以上に強くなっていくことはないと考えるからです。 サントリーは、世界のスタンダードを目指してやっています。Vリーグでは5連覇を果たしていますが、その上は何かということを見据えています。例えばブラジルは世界覇者として君臨していますが、身長や体重などは日本の選手とさほど変わりません。ではなぜ彼らが強いのか、ということを探って、挑戦者していくことが大切であると思っています。

今回も日本の男子バレーはオリンピックに出場できません。これは誰の責任か、と考えたときに、それは選手の責任かもしれないし、我々バレーボールに携わっているすべての人の責任かもしれない。なぜなら、日本のバレーが遅れているという認識が足りないからです。ルール改正があってから、バレーそのものが全くといって良いほど違うスポーツになりました。練習方法も全く違うものが必要とされています。そしてそのことを指導者である立場の人が理解しているのか甚だ疑問であります。ともあれ、全日本の動向に関わらず、我々のチームは「世界」を意識して目標を掲げていこうと思っています。

講演、レクチャーの概要 佐々木太一氏

はじめに

今回の実技指導(披露)であるが、根本的に私が独自に考えるものであり、23年間自分がプレーしてきた上で体得したものであり、必ずしもそれが正論とはいえない。むしろ私はあまり人に教えてもらうのが得意ではなく、どちらかというと実践において自分で編み出したものが多数を占めるので、その辺はご了承いただきたい。今回皆様に披露するものが、バレーボール界において少しでも発展につながるものであれば幸いである。

クイックの入り方

基本となる考え方

クイックでもオープンスパイクも同じ考え方ではあるが、とにかく下に落としたら1点になる。「ボールを相手コートに落とす」ためには様々な要素があり、かつその要素を最大限に利用してクイックを打つことが重要である。この点においてオープンスパイクと違うところは、クイックの場合は、「入り方」「跳び方」「相手ブロックの跳ばせ方」「空中でのフェイク」「最終的な腕の振りや手首の返し方」など、ボールが最終的に自分の手から離れるまでに、様々な工夫ができるところにある。

移動攻撃 空中でのフェイク動作

様々な移動攻撃があるが、現在国内で主流となっているのは、A、B、C、D各クイックにおいて、それぞれ任意の場所で踏み切り、「別の場所でボールをミートする」という打ち方である。これにブロックの跳ばせ方や、上体移動のフェイクなどをかけると、たかが9メートルの横と1メートルほどの縦、そしてネット上の50センチほどの高さを合わせた3次元の中でも、種類は何千通りと生まれてくる。また、後ろから絡んでくる攻撃者にブロックマークをさせない引きつけ方も大事である。

A、B、C、Dクイック
Aクイック
ノーマルA レフト、センター、ライトからそれぞれ
A頭 A流し タイミングのずらし B→A C→A
Bクイック
ノーマルB レフト、センター、ライトからそれぞれ
Bインナー決め打ち B流し A→B
Cクイック
ノーマルC レフト、センター、ライトからそれぞれ
D→C A→C C流し C頭

効果的なブロックマークのさせ方

入るスピードの速さを変える。現在主流の「バンチリードブロック」では、クイッカーが遅く入れば遅く入るほどブロックの枚数は増えてくる。これを利用して相手ブロッカーを引きつけ、後ろの攻撃者を楽にさせたり、自分が前衛サイドに取らせないフェイントをすることが可能。

  • (例)ライトからB振りで二枚つかせての前衛ライトへのフェイント。
  •   レフトからA幅で前衛レフトへのフェイント

踏み切る場所と同じように大事なのが上体の位置。相手ブロッカーの目線に入ってくるのは最終的には相手スパイカーの状態の位置。これを移動させることにより、相手ブロックマーク(手の位置)を移動させて、決定コースを確保する。

ブロックシステム

基本となる考え方

ブロックとは相手の攻撃が自陣に入ってくる前にしとめる、というものだが、現在の「攻撃バレー」のなかでは、「相手の攻撃をこちらの攻撃に変える」というものに変わりつつある。ブロックに関しても、相手のコートにボールがある時間帯での「読み」や「ステップ」が大きな要素になってくる。その代表例として挙げられるのが、「ハンドクリップ」である。

ハンドクリップ

大半のバレーチームが「ブロックで相手コースをふさぐ」という考え方である。後衛のレシーブ陣がレシーブしやすくするためでもあるのだが、これは大きなリスクを伴う。まず、レシーブが上がるか、次にトスが上がるか、そしてスパイカーが決まるか、である。それならばそこに到達する前にしとめてしまおうという考え方である。大事なのはボールのコースを塞ぐのではなくボールを「捕まえる」ことである。ネット上を通過するボールは鋭角に広がっていくので、角度が浅いうちにボールをキャッチングする。つまり相手コートの、よりスパイカーに近い位置でボールを捕らえることである。そのためには「跳ぶ位置」や「手の振り」、「目線の動かし方」などが重要になってくる。

相手攻撃に対する効果的マーキング

マーキングするにあたって重要なのは、「そのときのローテーション状況」「得点差と得点経過」「そのゲームでのデータ分析」がある。根本的には。試合の流れに沿って「誰をマークからはずすか」から「誰をマークするか」に変わってくる。ゲーム序盤では4人のスパイカーをマークするときもあるが、終盤になるにつれて1人だけをマークするときもある。的確な状況判断が要求されるのは言うまでもない。

ブロック時のステップ方法

現在のブロックのステップには、0、1、2、3、クイック3などがあるが、ここでは現在世界で主流の3ステップについて触れたい。ステップの中で一番高さが出るのは、手を全開に振って跳ぶ「3ステップ」である。しかしブロック枚数が増えたときの横のブロッカーとの合わせ方や、空中で身体が流れるなどのかなりのリスクがある。これを止めるためにサイドのブロッカーの的確な位置取りが必要となる。相手の何に自陣のブロッカーの基準をあわせるかがポイントになってくる。

モデルチームとしての参加高

高輪高校、東洋高校、桜美林高校、東亜学園、安田学園、木更津工業高等専門学校、千葉東高校、拓大紅陵高校